ワイン造りの常識を打ち破る、都農ワイン醸造家の姿

若きワイン醸造家誕生までの物語を追いかけていく連載企画、<都農町スター誕生>。

今回は、ワイン醸造家を目指す都農ワイナリーの服部さんに、都農ワインはじまりの歴史や魅力、普段のお仕事についてインタビュー。

いまや、たくさんの賞を受賞しており世界的にも高い評価を得ている都農ワイン。しかし、土地柄が温暖な宮崎県都農町は決してワイン作りに適している環境とはいえません。

なぜこのような環境で、ワインが生まれ、世界に羽ばたいていったのでしょうか。その秘密に迫ります。

 

都農町で盛んなブドウ栽培のはじまり

「かつて永友百二さんという方がいらっしゃって、梨栽培をされていました。全国梨品評会で総合一等賞を取るほど美味しい梨だったんですが、樹木の寿命や台風の影響も大きく戦後はぶどう栽培に転換します。

百二さんから広がっていたぶどう作りですが、特に取り上げたいのは都農ワインの看板商品である原材料品種のキャンベル・アーリーです。アーリーという名前がついている通り、台風が来る前に早期収穫が可能。

これが都農町にキャンベル・アーリーが根付いた経緯です。」

 

永友百二さんから始まり、盛んとなったぶどう栽培ですが、シーズンが過ぎるとぶどうの価値が下がり、高く売れ無くなるという問題点を抱えていました。

1996年にこのぶどうを活かした6次産業の立ち上げとして第三セクターを設立。これが今年で25周年を迎える、現在の都農ワインとなりました。

 

ワインメーカーでは考えられない選択。
温暖湿潤な土地でのワイン造り

「ブドウは昼夜の寒暖差が大きく、降雨量が少ない所が栽培に適していると言われてるんですよ。だから日本ワインの四大産地は涼しく雨が少ない場所なんです。でも宮崎県は年間降雨量が3,000mm近く、世界のぶどう産地の4倍も雨が降るんです。」

雨が降ることで果実が水分を吸収し過ぎて糖度・凝縮度の低い果実になったり、水分過多で実が破裂することも。

そんなリスクを背負いながら都農ワインではワイン造りはぶどう作りからという想いでぶどうを栽培・醸造しています。

「醸造家だからといって、仕事はワインを醸造するだけではありません。土づくりからワイン造りは始まっています。今日の畑がどんな状況かを見るのも一つの仕事です。畑を見ながら今年のワインはどんなワインになるかを想像するのはとても楽しいですね。」

毎朝7時半に畑に出て、その日の畑の状況を確認。畑スタッフと一緒に雨除けのビニール貼りを手伝ったりと仕事は多岐に渡ります。

ワイン造りに対する熱い想いがあるからこそ、人任せにせず自分も一緒にぶどう作りから関わっていきたいという気持ちが伝わってきます。

 「一年で考えると、八月に入る頃にぶどうが綺麗に実って、仕込み時期が始まります。十月までそれが続き、この時期が一番大変です。朝から晩までひたすら仕込み作業をしているような感じ。この時期がが終わると、また日常業務の流れに戻ります。」

醸造の一つの仕事、滓引き。

この日は実際の仕事に密着。今日は滓引きという、清澄されたワインと滓を分ける作業をしています。

タンク内のワインをある程度別のタンクに送った後、ワインの液面にホースを差し入れ、タンクの底部に沈んでいる滓を吸わないようにしながら、上部の綺麗なワインだけをホースで吸い上げるという作業です。

発酵が終わったばかりのワインの場合、タンクに二酸化炭素ガスが充満していることがあり、このときタンクのマンホールに頭を入れすぎると、酸欠で気を失う危険性もある作業です。危険と隣り合わせのなかで、真剣な眼差しでワインを見つめる姿が印象的でした。

 

ワイン界の何でも屋=都農ワイン醸造家

「都農ワインの醸造家になると、一言で言えば何でも屋さんなんです。醸造の仕事はもちろんだけど、畑にも顔を出すし、出荷作業もある。それと四半期末の棚卸もあります。昨年末には酒税調査対策もあったし、今だと、創業25周年をお祝いするイベントも企画しています。

ワインに関わることなら何でも幅広くやらせてもらえているのが、都農ワインの醸造家の良いところです。」

大変なことはあるかお聞きすると、忙しい仕込み期の肉体的な部分とのこと。朝早くから夜遅くまで働いており、10キロから15キロあるブドウを何百箱と繰り返し持ち上げていると、仕事終わりには指先がガチガチに固まってしまう。明るくそのことを話す姿を見ていると、おいしいワインの裏側には醸造家たちの知られざる苦労があることを改めて感じます。

「あとは宮崎県特有の台風ですね。日本の他の多くのワイナリーと違って、都農ワインではちょうど収穫時期に台風がやってくる。台風が直撃しやすいので、どんなに想いを込めてブドウを育てていても、大きな台風がひとつ来たらそれまでの苦労は水の泡です。収穫量が通常の半分くらいになってしまうことも。その点が他のワイナリーとは少し違うのかなあ。

でも、むしろそれが僕は面白いと思っています。

こうやって海と空を眺めていると、自然を相手にして働いているんだなあって実感できる。変な表現ですが、心地よい無力感です。僕が大好きな作家カート・ヴォネガットがいうところの、「そういうものだ」ってやつです(笑)。

他に大変な点は特に無いですね。みんな仲良しだし、手を上げればなんでもやらせてくれる環境なので、ワイン造りには最高の環境だと思います。」

 

過酷な環境下で作られてきた都農ワイン。常に新しい挑戦をしてきた結果、毎年新しい種類のワインを生み出している。常に新しいことにチャレンジというカルチャーがある都農ワインで、服部さんが今後挑戦したいことを尋ねてみると・・・。

「当面の目標は自分が考えたやり方で現状の都農ワインをさらに美味しく仕上げられるかってところです。発酵の仕方や保管の仕方など、色々なことを試してみたいです。」

 
春がやってきて都農ワインのぶどうが萌芽を始めています。何度台風がやってきても毎年立派な実をつけたぶどう樹のように、服部さんの中にも都農ワイン醸造家としての萌芽が見えた取材でした。

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