「トマト」と聞くと、何を想像するだろうか。
赤くて、丸くて、
髪の毛みたいな緑色の房があって、
少しかじるとふわっと甘味を感じる。
そんな小さな、 かわいいトマトには、 ひとりの、ながく、濃く、 ずっしりとした想いが詰まっていた。
その日は雨が降っていて、
その人は雨のなかにいた。
河野 尚範(かわの ひさのり)さん
宮崎県都農町でトマト農家をしている。
河野さん:おお、来たか。
あ、これがビニールハウス。入ろうか。
ビニールハウスに案内してくれた。
人物紹介:河野 尚範さん
ミニトマトを育てている「てらさ小町」代表。
土壌にこだわり、与える水分量や温度・湿度を管理し、丹精込めて甘くて肉厚なミニトマトを育てている。好きな飲み物はガリチューハイ。
※ガリチューハイ…酎ハイにガリ(生姜)をいれた飲み物
それぞれ、あっていい。
このトマトたちはどこで売ってるんですか?
出荷して、日向市の卸しに出して、そこから生協やAEONグループにいくかな。
「道の駅つの」でも売られてますよね!
そうね。でも昔に比べたら、道の駅でトマトを買うひとは減ったなぁ。昔は味見してから、買ってもらったりしてたけど。
道の駅でお土産を買う人はよく見かけますが、「野菜」を買う人は昔より減ったんですかね。
最近は、どこでも安くトマトが買えるから、高いトマトはいらないと言う人もいる。トマトの単価が下がっているというのもあるし。
いいもんつくっちょるから高くで買い取ってほしいていうけど、安いもんでいいと、そういうことは日本全国でおこっとるね。
たしかに、、、
消費者もそうかもしれん。安いもんでいいと。
高級志向でいくのか、安いトマトやと、飾り付けのためのトマトに使ったりもあるし。それぞれ高いものから安いものまで、それぞれあってもいいのかなと思うよ。
昨日はじめて、このトマトを食べたんですが、ほっんとうにおいしくて。肉厚で甘くて。
正直、わたしも東京で住んでいるときは、おいしいものというより、「いかに安く」で、野菜を選んでました。
でも、トマトって、こんな農家さんによって味が違うんや!って。。。
「農家」になるということ。
河野さんのおじいさんの代から農家を始めているんですか?
おじいさんがトマトをはじめて、70年ぐらい経って今は3代目やね。
トマトを都農にもってきたひとがおじいさんで、それから、都農町にトマトが増えてきたね。
今でこそ、都農町はトマト農家が多いですけど、おじいさまが先駆者だったんですね。
おれは、設備がもったいないから農家はじめたけど、親には「農家はしなくていい、後継者いらん」と言われとった。
苦労したから、せんでいいと。
お父さんも複雑やったやろなぁ。。。
でも、他の仕事しちょったけど、トマト育てるんちょっと手伝いよるうちに楽しくなって。
それこそ、手間かけたらおいしくなったり、自分の育てたトマトが自分の思っていた以上の値段がついたとき、なんかすっごい嬉しくて。
それから、他の仕事やめて農家になったんよ。
でも、大変。
農家は博打(ばくち)みたいなもんで、毎年、毎月、毎日、環境や天気がちがうから。
これが何年続くか分からんし、毎年同じ収入じゃないし。来年また課題がでてくるし、でもトマトをやめようとはおもわん。
やっと、、、やっとたどり着いた味。
トマトに関わりだしてから何年ですか?
10年ぐらいかな。
おやじは、「大玉トマト」と「メロン」をしていて、でも、メロンは土壌消毒問題で作らなくなった。
そんなとき、おれはこの品種に出会って、ミニトマトをしようと思った。
この品種はどんな出会いだったんですか?
ある農家さんに行ったら「これ、おいしい!」と言われちょって、食べたときに感動したんよ。「なんこれ!?」て。
昨日のわたしですね(笑)
おいしかったけど、作る農家がおらんかった。作りにくいし、儲からん。みんな2年でやめていく。
でも、このトマト食べた瞬間に感動して「これや」「これ、つくろう」と。ずっと大玉やったけど、これをつくろうと思って。
それから10年経ったなあ。
やめていく理由は、皮が薄いぶん、割れやすくてすぐに売りものにならん。今日みたいなこんな雨の日は湿度で割れてしまうんよ。
湿度に弱いんですね。
2~3年で分かってるっちゃけど、捨てきれなくてどうしていいか分からんかって、めっちゃ苦労した。
見ていくうちに、割れていくっちゃ。収穫する前なのに。
どうしたら、割れないのか。。。
10年ずっと考えよって、10年かかって今年、ようやく分かったんよ。
え、どうして割れないようになったんですか!?
それは、実は、、、
〇〇〇〇(秘密)笑
えーーーーそんなことをするんですか!!!
そんなに手間かけてらっしゃるんですね(涙)
10年かけて、やっと正解にたどり着いたなあ。。。と。
ここにたどり着くまでに、めちゃくちゃ勉強したんですか!?
めちゃくちゃしたなあ、、、。
今は、味のノリもよくなってるし、でも、もっと早く気づけばよかった。
今年これかなと毎年試して、「あ、違うな。」と。
やっと、、、、やっと今年たどり着いたんよ。
(涙ぐむわたし)
湿度が関係してると思ったけど、違ったんやなあと。
答えはここにあったんかと。
大変。でも、面白い。やめられない理由。
答えがここにあったんだ!と。。。
10年間ずっと試行錯誤されて、そんなところにも農業の面白さってあるんですかね。
毎年、実験みたいなところは農業の面白いところやっちゃね。
また次、来年おいしくなる方法をみつけようと、、、
河野さん、ゴールはないんですか?
わたしだったら、もうこれでおいしいから、ここまででいいと思ってしまいそうです。
ずっと勉強、終わりじゃないもん。もっと上を目指さにゃいかん!
これでいいんじゃて満足したら、もう努力せんもんね。
す、すごい、、、。
この品種は弱いから「もっと品種を変えれば大量に生産できる」と言われたけど、これに惚れて10年続けてきたから、これをやめるとなったら、農業やめてもいいと思うよ。
うちの親も「いつまで、これつくり続けるんか!?なんで、そんな悩んでるのに」と5年目ぐらいに言われて、自分もずっとストレスで、、、。でも、もっと目指さにゃいかんと思って続けてきたんよ。
やっぱり続けてきてよかったなと思う瞬間ってどんな時なんですか?
先輩や後輩、町のみんなが買ってくれて、「うわ、おいしいちゃ!」って言ってくれて、広まってほんとにありがたいと思うよね。
とくに同級生には、ほんとたくさん助けられた。
むかし買ってくれたお客さんも、また買いに来たよって嬉しいし、下手なもんだせんちゃって思いが強くなるよ。
一切の妥協を許さないんですね。
自分が納得したものしか出せんちゃね。だから、まだおいしくないから出せないって断るときもあるよ。注文受けて、そのとき出せるか分からんよっていうときもある。
「なんで、そんなこだわっちょっと」って言われることもあるけど、妥協はしたくない。
今年、割れない方法が見つかって、お父さまも嬉しいんじゃないですか?
3年前に亡くなったちゃけどね。
今年一緒に迎えられなかったから、仏壇にトマトそなえて。
うちのかあちゃんも、今年が正解やったねと。
今年は河野家のなかでも歴史的瞬間でしたね。
だから、続けてよかったと思ったね。
おいしいものは残る。残ってほしい。
最近は、みんな、生き残るために試行錯誤してるよ。
この前、ポケットマルシェの「高橋博之さん」の話を聞いて、「みんなの生きる土台」を作っている農家さんが苦しんでいたり、後継者に悩んでいたり、おかしいなと思って。
全国の農家・漁師さんから直接食材を買えて、直接話せるオンラインマルシェ
だから、そういう人がネット販売をして、儲からなかったひとが儲かりだして「あ、そうやな。これやな。」て。
今からネット社会やし、デジタル化がきてるなぁって。
わたし、正直農業ってこんな面白いって思ってなかったんです。
ネットで野菜を買う時代が来ているんやと今は実感するよ。そして、いいものはいいもので残っていく。
農業って、そう簡単になくならんし、減っていってもゼロにはならんし。わたしらは、おいしいものを追求しつづけて、つくっていくだけや。
東京で住んでいたときは野菜って農家さんがつくったものなんですが、実感がなかったというか。。。
もっと農家さんが身近になったらいいんかな。。。
道の駅でも、「あ!〇〇さんのトマトだ!」と買うひともいるから、ネットでも「〇〇さんのこの野菜を買おう」ってなったりしたら面白いよね。
トマトは「生きがい」。
Q: 河野さんにとって「トマト」とはどんな存在ですか?
“生きがい”やろか。
今やめろって言われたらやめれん。
死んだと一緒やな。
子どもと思ってるし、息子みたいなもんやな。
しゃべらんけど、
葉っぱで反応してくれたり、
自分の子どもを育ててるみたいや。だから、“生きがい”や。
トマトって「食べんでもいい」
って言うひともいると思うけど。まじ、おれにとっては、
トマトって人生やね、まじ。これからこのトマト、あと10年で成人やわ
まだまだ頑張らんといかんね。
河野 尚範
トマトくん、また会いに来るよ。
トマトって、赤くて、丸くて、ふわっと甘くて、
愛が詰まってて、食べると、なんだかほっこりして。
正直トマトって、、、
「どれもそんなに変わらない」
と思っていたわたしにとって、
河野さんのトマトとの出会いは衝撃でした。
このトマトを少しでも多くの人に知って、
食べてもらいたいと思い、この記事を書きました。
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宮崎県児湯郡都農町大字川北17607
次回は、都農町の金柑農家「金丸広和さん」です。お楽しみに!