河野尚範|トマト農家の歩んだ10年の軌跡と、奇跡の味。

「トマト」と聞くと、何を想像するだろうか。
赤くて、丸くて、
髪の毛みたいな緑色の房があって、
少しかじるとふわっと甘味を感じる。
そんな小さな、
かわいいトマトには、
ひとりの、ながく、濃く、
ずっしりとした想いが詰まっていた。
その日は雨が降っていて、
その人は雨のなかにいた。
河野 尚範(かわの ひさのり)さん
宮崎県都農町でトマト農家をしている。
河野さんおお、来たか。
あ、これがビニールハウス。入ろうか。

ビニールハウスに案内してくれた。

人物紹介:河野 尚範さん

ミニトマトを育てている「てらさ小町」代表。

土壌にこだわり、与える水分量や温度・湿度を管理し、丹精込めて甘くて肉厚なミニトマトを育てている。好きな飲み物はガリチューハイ。

※ガリチューハイ…酎ハイにガリ(生姜)をいれた飲み物

人物紹介:吹田 あやか

株式会社イツノマのライター

好きな食べ物はとうふ。

最近、中古車を買いドライブにはまっている。

キャンプ、山登り、釣り、したいこと盛りだくさん。

それぞれ、あっていい。

あやか

このトマトたちはどこで売ってるんですか?

河野さん

出荷して、日向市の卸しに出して、そこから生協やAEONグループにいくかな。

あやか

道の駅つの」でも売られてますよね!

河野さん

そうね。でも昔に比べたら、道の駅でトマトを買うひとは減ったなぁ。昔は味見してから、買ってもらったりしてたけど。

あやか

道の駅でお土産を買う人はよく見かけますが、「野菜」を買う人は昔より減ったんですかね。

河野さん

最近は、どこでも安くトマトが買えるから、高いトマトはいらないと言う人もいる。トマトの単価が下がっているというのもあるし。

いいもんつくっちょるから高くで買い取ってほしいていうけど、安いもんでいいと、そういうことは日本全国でおこっとるね。

あやか

たしかに、、、

河野さん

消費者もそうかもしれん。安いもんでいいと。

高級志向でいくのか、安いトマトやと、飾り付けのためのトマトに使ったりもあるし。それぞれ高いものから安いものまで、それぞれあってもいいのかなと思うよ。

あやか

昨日はじめて、このトマトを食べたんですが、ほっんとうにおいしくて。肉厚で甘くて。

正直、わたしも東京で住んでいるときは、おいしいものというより、「いかに安く」で、野菜を選んでました。

でも、トマトって、こんな農家さんによって味が違うんや!って。。。

「農家」になるということ。

あやか

河野さんのおじいさんの代から農家を始めているんですか?

河野さん

おじいさんがトマトをはじめて、70年ぐらい経って今は3代目やね

トマトを都農にもってきたひとがおじいさんで、それから、都農町にトマトが増えてきたね。

あやか

今でこそ、都農町はトマト農家が多いですけど、おじいさまが先駆者だったんですね。

河野さんの息子(ときま)さんが書いた短歌
河野さん

おれは、設備がもったいないから農家はじめたけど、親には「農家はしなくていい、後継者いらん」と言われとった。

苦労したから、せんでいいと。

あやか

お父さんも複雑やったやろなぁ。。。

河野さん

でも、他の仕事しちょったけど、トマト育てるんちょっと手伝いよるうちに楽しくなって。

それこそ、手間かけたらおいしくなったり、自分の育てたトマトが自分の思っていた以上の値段がついたとき、なんかすっごい嬉しくて。

それから、他の仕事やめて農家になったんよ。

河野さん

でも、大変。

農家は博打(ばくち)みたいなもんで、毎年、毎月、毎日、環境や天気がちがうから。

これが何年続くか分からんし、毎年同じ収入じゃないし。来年また課題がでてくるし、でもトマトをやめようとはおもわん。

やっと、、、やっとたどり着いた味。

あやか

トマトに関わりだしてから何年ですか?

河野さん

10年ぐらいかな。

おやじは、「大玉トマト」と「メロン」をしていて、でも、メロンは土壌消毒問題で作らなくなった。

そんなとき、おれはこの品種に出会って、ミニトマトをしようと思った。

あやか

この品種はどんな出会いだったんですか?

河野さん

ある農家さんに行ったら「これ、おいしい!」と言われちょって、食べたときに感動したんよ。「なんこれ!?」て。

あやか

昨日のわたしですね(笑)

河野さん

おいしかったけど、作る農家がおらんかった。作りにくいし、儲からん。みんな2年でやめていく。

でも、このトマト食べた瞬間に感動して「これや」「これ、つくろう」と。ずっと大玉やったけど、これをつくろうと思って。

それから10年経ったなあ。

やめていく理由は、皮が薄いぶん、割れやすくてすぐに売りものにならん。今日みたいなこんな雨の日は湿度で割れてしまうんよ。

あやか

湿度に弱いんですね。

河野さん

2~3年で分かってるっちゃけど、捨てきれなくてどうしていいか分からんかって、めっちゃ苦労した。

見ていくうちに、割れていくっちゃ。収穫する前なのに。

どうしたら、割れないのか。。。

10年ずっと考えよって、10年かかって今年、ようやく分かったんよ。

あやか

え、どうして割れないようになったんですか!?

河野さん

それは、実は、、、

〇〇〇〇(秘密)笑

あやか

えーーーーそんなことをするんですか!!!

そんなに手間かけてらっしゃるんですね(涙)

河野さん

10年かけて、やっと正解にたどり着いたなあ。。。と。

あやか

ここにたどり着くまでに、めちゃくちゃ勉強したんですか!?

河野さん

めちゃくちゃしたなあ、、、。

今は、味のノリもよくなってるし、でも、もっと早く気づけばよかった。

今年これかなと毎年試して、「あ、違うな。」と。

やっと、、、、やっと今年たどり着いたんよ。

あやか

(涙ぐむわたし)

河野さん

湿度が関係してると思ったけど、違ったんやなあと。

答えはここにあったんかと。

大変。でも、面白い。やめられない理由。

あやか

答えがここにあったんだ!と。。。

10年間ずっと試行錯誤されて、そんなところにも農業の面白さってあるんですかね。

河野さん

毎年、実験みたいなところは農業の面白いところやっちゃね。

また次、来年おいしくなる方法をみつけようと、、、

あやか

河野さん、ゴールはないんですか?

わたしだったら、もうこれでおいしいから、ここまででいいと思ってしまいそうです。

河野さん

ずっと勉強、終わりじゃないもん。もっと上を目指さにゃいかん!

これでいいんじゃて満足したら、もう努力せんもんね。

あやか

す、すごい、、、。

河野さん

この品種は弱いから「もっと品種を変えれば大量に生産できる」と言われたけど、これに惚れて10年続けてきたから、これをやめるとなったら、農業やめてもいいと思うよ。

うちの親も「いつまで、これつくり続けるんか!?なんで、そんな悩んでるのに」と5年目ぐらいに言われて、自分もずっとストレスで、、、。でも、もっと目指さにゃいかんと思って続けてきたんよ。

あやか

やっぱり続けてきてよかったなと思う瞬間ってどんな時なんですか?

河野さん

先輩や後輩、町のみんなが買ってくれて、「うわ、おいしいちゃ!」って言ってくれて、広まってほんとにありがたいと思うよね。

とくに同級生には、ほんとたくさん助けられた。

むかし買ってくれたお客さんも、また買いに来たよって嬉しいし、下手なもんだせんちゃって思いが強くなるよ。

あやか

一切の妥協を許さないんですね。

河野さん

自分が納得したものしか出せんちゃね。だから、まだおいしくないから出せないって断るときもあるよ。注文受けて、そのとき出せるか分からんよっていうときもある。

「なんで、そんなこだわっちょっと」って言われることもあるけど、妥協はしたくない。

あやか

今年、割れない方法が見つかって、お父さまも嬉しいんじゃないですか?

河野さん

3年前に亡くなったちゃけどね。

今年一緒に迎えられなかったから、仏壇にトマトそなえて。

うちのかあちゃんも、今年が正解やったねと。

あやか

今年は河野家のなかでも歴史的瞬間でしたね。

河野さん

だから、続けてよかったと思ったね。

おいしいものは残る。残ってほしい。

河野さん

最近は、みんな、生き残るために試行錯誤してるよ。

あやか

この前、ポケットマルシェの「高橋博之さん」の話を聞いて、「みんなの生きる土台」を作っている農家さんが苦しんでいたり、後継者に悩んでいたり、おかしいなと思って。

ポケットマルシェとは?

全国の農家・漁師さんから直接食材を買えて、直接話せるオンラインマルシェ

株式会社雨風太陽 | 都市と地方を...
株式会社雨風太陽|都市と地方をかきまぜる 産直アプリ「ポケットマルシェ」を運営する株式会社雨風太陽は、都市と地方をかきまぜて「関係人口」を生み出し、日本中あらゆる場の可能性を花開かせます。
河野さん

だから、そういう人がネット販売をして、儲からなかったひとが儲かりだして「あ、そうやな。これやな。」て。

今からネット社会やし、デジタル化がきてるなぁって。

あやか

わたし、正直農業ってこんな面白いって思ってなかったんです。

河野さん

ネットで野菜を買う時代が来ているんやと今は実感するよ。そして、いいものはいいもので残っていく。

農業って、そう簡単になくならんし、減っていってもゼロにはならんし。わたしらは、おいしいものを追求しつづけて、つくっていくだけや。

あやか

東京で住んでいたときは野菜って農家さんがつくったものなんですが、実感がなかったというか。。。

もっと農家さんが身近になったらいいんかな。。。

河野さん

道の駅でも、「あ!〇〇さんのトマトだ!」と買うひともいるから、ネットでも「〇〇さんのこの野菜を買おう」ってなったりしたら面白いよね。

トマトは「生きがい」。

Q: 河野さんにとって「トマト」とはどんな存在ですか?

“生きがい”やろか。

今やめろって言われたらやめれん。

死んだと一緒やな。

子どもと思ってるし、息子みたいなもんやな。

しゃべらんけど、
葉っぱで反応してくれたり、
自分の子どもを育ててるみたいや。

だから、“生きがい”や。

トマトって「食べんでもいい」
って言うひともいると思うけど。

まじ、おれにとっては、
トマトって人生やね、まじ。

これからこのトマト、あと10年で成人やわ

まだまだ頑張らんといかんね。

河野 尚範
トマトくん、また会いに来るよ。

トマトって、赤くて、丸くて、ふわっと甘くて、
愛が詰まってて、食べると、なんだかほっこりして。

正直トマトって、、、
「どれもそんなに変わらない」
と思っていたわたしにとって、
河野さんのトマトとの出会いは衝撃でした。

このトマトを少しでも多くの人に知って、
食べてもらいたいと思い、この記事を書きました。


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お気軽にお問い合わせください。

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電話番号:080-1710-8131

住所:〒889-1201
宮崎県児湯郡都農町大字川北17607


次回は、都農町の金柑農家「金丸広和さん」です。お楽しみに!

執筆:吹田あやか
写真:松山かんき

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