若きワイン醸造家の目指す未来<都農町スター誕生 vol.1>

ワイン造りに導かれて。その身一つで、宮崎県都農町へやってきた。

「ワインとは文学や音楽にならぶ芸術なんです。そんな芸術性のあるワインを造りたい


そう語るのは、東京から宮崎県に移住し、㈱都農ワインで都農町地域おこし協力隊として活動する服部宏隆さん(34)。彼は現在、世界的に評価の高いワイン造りをしていることで知られる「都農ワイナリー」で、「ワイン醸造家」を目指し活動しています。

2020年の8月に、この小さな町、宮崎県都農町へと移住。ワイン造りに導かれ、都農町へやってきた服部さん。

彼を突き動かすワインの魅力とは何なのか?これからどんなワイン造りを目指すのか・・。若きワイン醸造家誕生までの物語を、本連載ではじっくりと追いかけていきます。

 

自分の“好奇心”と正直に向き合う。サラリーマンから物書き、そして醸造家へ。

「出身は大阪で、すぐに埼玉県に引っ越して、小学校は栃木県で過ごし、父親の仕事の都合で関東をくるくると引っ越していました。中学、高校は神奈川県で暮らし、それから東京の大学に入学。卒業後は半導体製造装置メーカーへ就職しました。それまでの仕事といえば、日々Excelとにらめっこしながら働く、いわゆるサラリーマンですね。

3年間勤めた後、辞めてカフェやホテルでアルバイトをしながらワインの世界にのめり込み、㈱都農ワインでワイン醸造家を目指し都農町地域おこし協力隊として活動することになりました。」

メーカー勤務の頃、パソコンの前でキーボードをはじくだけの味気ない作業に面白みを見いだせず退職。何をしたいかと考えたときに浮かんできたのは、作家への道でした。

「辞める時に自分は何が好きかなと考えたんですよ。そうしたら書くのが好きだなって。小学生の頃から、作文ってなんでだか楽しかったんですよね。文章を書いていると時間を忘れちゃって。社内メールすら書くのが楽しくって。今でも毎朝1時間ほど小説を書いているんです。それがかれこれ8年間になりますね。」

小説制作に取り掛かったのが会社を辞めた26歳の頃から。それからは書き物中心の生活で、文章を書きながら、カフェやホテルのアルバイトで食いつないでいたそうです。

その生活を続けていたとある日、人生の転機が突然訪れます。

もともとお酒は好きだったが、特にどれが好きということもなかったという服部さん。しかし、ある酒屋で購入したワインを飲んだ時に、今までの価値観を覆すほど、「ワインって美味しい」と心底感じたのが、その世界にのめり込むきっかけでした。

 

飲むだけでは物足りず、造り手の道を目指す。

「ワインにはまるきっかけを作ってくれたのは、横浜で出会ったワインショップの『平野弥さん』です。ここで売っているワインを飲んだら、他のワインは飲めなくなるって口コミを見かけて、気になり訪れたんです。

平野弥店主からおすすめされたワインに衝撃を受けました。液体の質感が全く別物なんですよ。キラキラしていて。赤ワインとか飲むとキシキシしていたり、舌の上にザラっとしたイメージですが、どんなに濃いワインでもそんなことが一切ない。」

 

素敵なワインショップと素晴らしいワインに出会ったおかげで、王道フランスのブルゴーニュから玄人好みの東欧ワインまで幅広い世界を知ることに。ワインにはまっていくにつれて、飲むだけでなく、だんだんと作りたいという気持ちに傾いていきます。

そのワイン作りの気持ちを後押ししてくれたのが、あるワイナリーでお手伝いした畑作業でした。汗まみれになりながらも、緑に囲まれた中で吹き抜ける風の心地よさと、太陽に熱された土の香りが醸造家を目指す服部さんの背中を押しました。

 

「純粋に、自然に囲まれた暮らしっていいなと感じたんですよね。以前、お手伝いしたワイナリーで働かせてもらう予定だったのですが、先方の事情で働けなくなっちゃって。どうしようかと考えていたら、ちょうど宮崎県が運営するふるさとみやざき人材バンクで(株)都農ワインを見つけました。

日本には300以上のワイナリーがあって、全部を見ることは出来ないし、どこに行っても良いことも大変なこともあり同じだろうと。都農ワインのシャルドネが美味しかったのもあって、ご縁だと思って飛び込みました。」

 

まるで「文学」のようなワイン。若き醸造家が目指す、ワイン造りの未来。

「いずれは自分のCuvéeを造りたいです。自分の考えややり方、育て方でワインを仕込んで。都農ワインの社長にもこう伝えたら、”いいね”って言ってくれたんですよ。」

少し照れくさそうに、そして誇らしそうに、服部さんは語ってくれました。都農ワインで活動を始めてからまもなく1年。現在は、先輩たちが築いてきた都農ワインの叡智と匠の技が詰まった、ワイン造りに取り組んでいます。ワイン造りとはどういうものかを四季を通して学び、今年で2回目のワイン造りの季節がやってきます。

3年後には自分自身がやってみたい形でワインを造り、10年後には人に芸術と言ってもらえるようなものを造りたいです。飲んだ瞬間に、映像やイメージが沸くような情緒的なワインを。ワインは文学や音楽、絵画に並ぶ芸術だと思っています。

以前参加したワイン会で印象的な出来事がありました。ひと口飲んだら真っ青な空に真っ白な太陽が浮かんでいる雲の上の風景が、頭の中に浮かんだんです。すると、他の人たちも飛行機に乗ってその窓から見る青空が浮かびましたと、同じようなイメージが浮かんでいた。そんな共感覚のようなものがワインにはある。

”ワインは人の感情に直接訴えかけることが出来る”って造り手さんからよく聞く事があるんですけど、そういうものを作ってみたいです。」

 

 

現在は毎日さまざまなワインの味を愉しみながら、自身の目指すワインの形を探っている服部さん。都農町からインスピレーションを受けた彼が創り上げるワインは、どんな風景を私たちに見せてくれるのでしょうか。作り手と土地の個性が掛け合わされたテロワールに期待が膨らみます。

自身の感動体験と、“好き”という気持ちに突き動かされて歩んでいく、彼のワイン醸造家としての物語。私達も一緒に、見守っていきたいと思います。

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