
まっすぐ、しなやかに、高く、高く、伸びていくアスパラガス。
上を目指して、迷いなく伸びていくその姿は、ひとりの農家さんの姿と重なった。
雲ひとつない、真っ青な空の下に、アスパラを育てている、その人は立っていた。
アスパラガス農家、児玉正志(こだま まさし)さん。


人物紹介:児玉正志さん
「こだまの恵」というブランドで日本各地にアスパラを。
土づくりにこだわり、みずみずしく生でも美味しいアスパラ作りを目指す。
常に新しいことに挑戦するアスパラ農家さん。

すべては土からはじまる。


お、いらっしゃい。まず、食べてみい。



生でですか!?
ポキッ!(児玉さんは、その場でアスパラを折って、わたしにくれた。)



え!?柔らかくておいしい!かじった瞬間、水が溢れ出しますね。
アスパラってもっと筋があって硬いイメージでした。



みんなあるやろ。うちはそういうのは絶対ないんよ。



こんなに違うんだ、、、。



この根っこの中の糖度が30度くらいあるっちゃわ。



根っこの中にですか。どうして、こんなに糖度が高いんですか?



アスパラっていうのは光合成した栄養分を大量に根っこに持っていくんよ。うちのアスパラは普通のもんと比べたら、ものすごい食べるんよ、肥料を。



肥料を食べる!?



話にならんくらい、普通の作物の30倍くらい入っちょる。



肥料って、堆肥とかですか?



そうやっちゃ。栄養がたくさん含まれている土。



じゃあ土づくりからかなりこだわってるんですね。



そう、それが大変やっちゃ。でも、この土は10年使えるからね。



具体的にどんなことをされているんですか?



うちのは、腐葉土(ふようど)が入っちょるわね。



腐葉土ってなんですか?



腐葉土は山にある葉っぱとかああいうのが腐ったものをいれる。これ黒くみえるけどね、ほとんど肥料やとよ。





そうなんですか。枯れ葉とか木を土にいれてるってことですか?



そうそう、バクテリアの栄養に。うちの肥料は、全部有機質の肥料やかいね。生き物でできてる肥料。



じゃあ、身体に悪いものは一切入ってないってことですか?



うん、そうよ。ここの土地はもう20何年、有機肥料だけで育ってる土地やとよ。



全く、化学肥料は使ってないんですね!



堆肥を混ぜたら土の中で活性化してアスパラの好きな栄養分になる。



アスパラって、苗から育つんでしたか?種を植えるんですか?



種を植えて、根っこがでてきて、、、。ほら、種をまいておくとこういう赤ちゃんがでてくるっちゃわ。





これ赤ちゃんですか?かわいー!赤ちゃん、いっぱいいますね。



そうそう、これを植えてけば、どんどん出始めるっちゃわ。
アスパラガスとの出会い





アスパラはいつから育てはじめたんですか?



アスパラ?アスパラはまだ5年くらい。
俺はもともと花作り専門よ、ユリ。



え!そうなんですか!?
最初は、お父さまがユリをはじめられたんですか?



ユリじゃなくて菊をしよった。でも、花はね、昔は売れたけど今は売れん。で、次に考えたのがユリやっちゃわ。



そうなんですね、ユリも高級品ですね。





そう、高級品はこのご時世だめやね。
だから食べるもんじゃないといかん。んで食べられるもん何がいいかなー?って考えたら、当時はアスパラガスが将来性があるなーって。



お花から、食べ物にシフト、、、。



この施設を活かしながら、経費がかからん方法って考えたときは、アスパラガスが出てきた。
コツコツ努力、これに限る。





ユリをずっと作ってこられて、いきなりアスパラを育てることになったとき、どうしたらいいのか分からないこととかありましたか?



手が回らんちゃわ、やっぱり手を入れんとだめよ。ただ植えとけばいいってもんじゃないかいね。



そうですよね。。。



ましてや、みーんな自分のところでアスパラ植えちょるひとおるっちゃけど、もう草いっぱいで、かなわんって。(※かなわん・・・大変)。



草でアスパラがだめになってしまうんですか?



そう、だめになってしまうとよ。専門家でも、手がまわらんとだめってなるんやから、私らみたいな人は油断したら相当、草藪(くさやぶ)になるかいね。



アスパラの作り方は誰かに教わったんですか?



アスパラはほとんど自分で。んで、そんげ聞かんでもできるようになったね。



じゃあちょっとずつ試して試して、そして、こんなにみずみずしいアスパラができたんですね。



うん、できるようになったねー。(ふふ)。
今は、手順と工程さえ間違えなければ大丈夫やね。





あとは、収穫も大変やね。



収穫はどうするんですか?



これがひん曲がっちょかいね。なんでこんなん残っちょかいの。
ほら、長さが足らんわ。



え!?足りないんですか?





やから明日まで待って、刈り取る。本当はこのくらい必要やとよ。



ちなみにこの長さは絶対必要なんですか?



これはうちの機械に入るのと、全国のアスパラガスの農家の人たちが収穫する基準の長さが大体このぐらい。





何センチですか?



大体25、5センチかな?27とか。 おれのは長い方が重さがあるからいいっちゃけど、あんまり長くすると細くなるかいね。
とはいえあんまり短くすると、重さがでらんし、利益にならんかいね。難しい。
児玉さん流アスパラの食べ方





アスパラはどうやって食べたら一番おいしいんですか?



1番はね、電子レンジがあれば2~3本ラップで巻いてチンとして、塩をふりかけて食べたら、ほんーーーとにおいしい。



え、そんなに?!(笑)



甘味がどこにも逃げんかいね。



シンプルな食べ方が一番美味しいんですね。



焼酎と合わせて食べるとうんまい!!(笑)



えー?!お酒と合うんですか?



もう、ばっちりよ!!お酒と合うかいね。
農家への入り口





児玉さんはどうして農家になろうと思ったんですか?



嫁さんが立派にかいよ。



それはもうちょっと具体的にお伺いしてもいいですか?!



仕事とは全然関係ない話じゃかいね(笑)。



きかせてください!(笑)。





奥さんと出会ったからよ。奥さんの家が農家やったから。一緒に頑張りたかったんよ。



素敵ですね!!奥さまと本当に仲良しですもんね。



いっつも一緒に、ずっと一緒に働いてるかいよ。



そうなんですね、じゃあ40年間ずっと一緒に農業されてるわけですね。
ちなみに、農家やめたいなって思った時はなかったんですか?



あるわあ、逃げ出そうと思う時ばっかりよ、農業って。。。そんげ順風満帆じゃねえわあ。



一番逃げ出したかったときはいつですか?



いつじゃったかいね?(笑)たくさんありすぎて分からんわ。



児玉さんは何歳から農家さんをされているんですか?



俺は23か24のときかな。俺はヘリコプターに乗っちょったとよ。



へ!?





自衛隊におったとよ。



そうなんですか!?おいくつからですか?



19、20とかかな。うん、2年間。



空の人だったんですか!?全然畑違いですね!



んで養子にはいったとよ、ここ、児玉家に。



こちらに養子にこられて、そこからお花を育てられたってことなんですね。え、でも、農家という道は児玉さん自身の本当にやりたいことだったんですか?



うん、当時はね。やっぱり将来性のある事業やったとよ。



40年前ぐらいのお話ですね。



やっぱ時代よね。次から次に波が来るから、そのとき、そのときでどんなに苦境でもやりきれるくらいがんばれば良かったかい。でも次の手を考えんといかん時もあるしね。



常に時代を読んで、動いてらっしゃるんですね。
つらかった時期はありましたか?



もうずっと辛いわー(笑)。



そうなんですか!? どういったところでそう感じられるんですか?



単価が下がったら農業はおしまいとよ。



やっぱり値段の変動が激しいんですね。



激しすぎるかいね。買う人はそんなこと思わんじゃろ?いっつも高いと思うわね?



そうですね。。。



お花は特に激しい。その点、上がり下がりが少ないという意味では食べ物はある程度需要・供給というのが出来てるから。ユリは何百円もするもんが、高い時はパーって売れるけど逆に安くなったときはマイナスが大きいとよ。



農家さんもしっかり戦略を練って、時代に沿った動きが必要になってくるんですね。
アスパラガスは「夢」。


夢やね。未知の世界やかいよ。
アスパラも今、全国増えてるけど、量的には増えていかんとよ。
はじめる人はいるけど、辞める人達もいるわけやから。
みんな失敗したりして、やっぱり簡単には上手くいかんとて。
その中で自分の物にするには相当努力せんと。
その中で、自分が満足して気に入る、思ったようなものができるのは面白みになるわ。
だから、こういうアスパラができたら、ああ、よし!って嬉しいじゃろ?
自分としても嬉しいし、みんなが食べて美味しい!って言ってくれるのはやっぱりうれしいとよ、つくってる人も。
だから、食べてみんというのは自信があるかいいうとよ。
だからやっぱり、アスパラもあんだけみずみずしさにたどり着くまでに、相当勉強して、忍耐力と努力と。
だから一流になるためにはよ、大変。
まだまだよ、死ぬまで戦いよ。
まだまだ夢の続きよ。
児玉正志
まっすぐ生きる。


まっすぐ、まっすぐ、高く、高く、伸びていくアスパラガスは
まるで、児玉さんを見ているかのようだった。
上にいくことだけを考え、太陽に向かって、長くながく伸びていく。
どんな時代が来ても、自分たちのできることを考え、あとは上を向いて進むだけ。
農家という決して簡単ではない世界で生き残っていくためには、児玉さんのような柔軟で、前向きな姿勢が不可欠なのだろう。
そして正志さんに栄養を与え続けている奥さんの存在は、まるでアスパラの味の土台をつくっている土のようだ。
まさに、しなやかで強く、味のしっかりした児玉さんのアスパラは、“児玉さん夫婦”を象徴しているかのようだった。
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今後も都農町のお野菜や、農家さんの思いをお伝えします。次回も乞うご期待!!